
応募作品:初動
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応募情報
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題名:初動
掲載日:2005-09-28 (水) 11:50:00
著者:Nobichan

「初動」
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つん、と鼻をつく異臭に眉をひそめながら牧村は部屋に足を踏み入れた。
目の前には既に死後硬直の始まっている被害者がうつぶせに倒れている。頭部から流れたと見られる血だまりは既に凝固し、床にべっとりとその後を残している。もう時間は十一時を回っている。夜の静まり返ったオフィスに横たわる死体は、死体を見慣れた俺でさえ薄気味が悪い。
「おい霧島、それで何かわかったのか?」
牧村の問いに、霧島と呼ばれた刑事が答える。まだ若いが有能な刑事だ。
「被害者は田中晴之。年齢三十二歳、隣町に在住、両親と同居。ここの研究室に勤めるエンジニアです。第一発見者は警備員で、午後の見回りでは異常がなかったことから午後三時以降に殺害されたものと考えられます」
「凶器は?」
「この階の洗面所で被害者の血痕のついたゴルフクラブが発見されています」
研究室でエンジニアが殺された。ありきたりの殺人事件のように思える。
「大体今日は日曜だろ。なんで会社なんかに来ているんだ」
「被害者は保守担当ということです。この日はバックアップ作業のため出社したようです」
と、霧島はよどみなく答える。
「別に不思議な点は何もないが・・・・・・なぜ俺が呼ばれたんだ?」
牧村は捜査一課に新たに設立された特殊事件捜査班のリーダーである。近年増えてきた凶悪犯罪を重点的に受け持っており、特に牧村は猟奇犯罪のプロフェッショナルというありがたくない異名で呼ばれていた。
そんな牧村から見れば、本件はごく普通の事件に思える。俺の貴重な休日をつぶす必要なんてないはずだ。
「あれを見てください」
霧島は被害者の右手を指し示す。そこには、自らの血で大きくMという字が書かれていた。いわゆるダイイングメッセージという奴だ。ふむ、今時古風なことをする。
「凶器の出所はわかるか?」
霧島は肩をすくめて研究室の窓際を指差す。おそらくここの上役のものと思われるゴルフバッグが口を開けて倒れていた。
「なるほどね。怨恨の線などは当たったのか?」
「もちろん。全てではありませんが、殺されるほどのものはおそらくないですね。被害者の経歴は綺麗なもんですよ」
人が殺されているというのに、霧島はひょうひょうと答える。若いのに豪胆な奴だ。いや、もしくは単に神経が鈍いのか・・・・・・まあいい。俺はようやく自分がここにいる理由が飲み込めてきた。
「つまり、俺が呼ばれたのは、このダイイングメッセージから事件の早期解決につながるヒントを推理しろ、とそういうことだな」
霧島はニヤリと笑って頷く。もし俺が何かに気付けばそれでよし、気付かなければ警察お得意の人海戦術によってしらみつぶしの証拠探しが始まるだけだ。そして人海戦術には金も掛かる。先月の某食品会社社長誘拐の件で散々予算を使った俺たちには、後者の選択はなんとしても避けたいところだ。
「大体、被害者の殺された動機も何もわからなくて、Mだけで想像しろというのが無理な話だが・・・・・・おい、容疑者の中にMの頭文字がつく人間はいるのか?」
「ああ、それは既に確認しました。部長の松田一樹、被害者の交際相手だった吉村美和、そのぐらいですね」
「逆に、現時点で容疑者は?」
霧島は手帳をめくる。
「そうですね、まだ捜査はほとんど手がついていないのでわかりませんが、どうもこの研究室に詳しい人間のような気がします」
「なぜ?」
「というのは、最近この研究室が外部から預かっている研究データの一部がライバル会社に漏洩していたらしくて。被害者が殺されたのも、その件に関係しているのではないかと思うんですよ」
なるほど。研究データの漏洩か。たしかにこの企業の規模から考えれば相当の大手企業に関係したデータに違いない。さぞかし大金となるだろう。
「でも、メールの送受信記録など、そこのPCを調べればすぐわかるんじゃないのか?」
「いや、それが情報はどうやら先々週の土曜日には消去されているようです。情報の漏洩が表ざたになったのは先週の金曜日のことなのですが、どうやらその前に情報を消去したようですね」
普通に考えれば、保守を担当していた被害者がなんらかの事実に気付き、犯人に連絡をとった、とこういうことになる。そうなると、PCのバックアップに行き当たる。
「これだけのシステムだ。バックアップがあるだろう?」
「バックアップはありますよ。ただし毎週同じテープにとってあるので、先週の週末に消されたとなると既に全てのデータが消えていることになります」
俺は目を閉じて思考した。考えても見ろ。ダイイングメッセージなんて、分かりやすく書くに決まっている。犯人の名前やヒントになるものしか書かないはずだ。M、エム・・・・・・何かの頭文字・・・・・・ん、まてよ? 俺はバックアップテープの入っている棚から月曜日のテープを抜き出した。テープに記載された日付を見る。
「なるほどね。Mは月曜日ということか」
霧島が不思議そうな顔でこちらを見る。
「バックアップは既に消えているはずじゃあ?」
「おい霧島。先週の月曜日の天気を覚えているか?」
「天気・・・・・・確か大きな雷雨が来るとか来ないとかで、街じゅうに非常線を張った日ですね」
俺はテープを霧島に渡して続ける。
「だから、雷だよ。被害者はコンピュータの保守を担当していたんだ。月曜日はおそらくマシンを落とした。つまりバックアップが取られていないんだ。二週間前のデータがそのまま残っているのさ」
霧島が納得した表情で頷く。
「なるほど。それに気付いた被害者がテープを調べに来て、同じくそれに気付いた犯人と鉢合わせた、とこういうことでしょうか」
「さあ、どうだろうな。とにかく、このバックアップテープから情報漏洩の線をあたるのが早そうだ」
「了解!」
霧島は勢い良く敬礼するとテープを持って部屋を出た。つくづく元気な奴だ。そう言えばそろそろ鑑識が到着する時刻だ。俺もそろそろ失礼するとしよう。
外に出て星を見上げる。この街の星空はいつみても美しい。今日の空にも雷雨どころか雲のかけらも見当たらず、月が鮮やかな真円を描いている。そういえば今日は一五夜だったか。日付が変わった時計を見ながら、俺はふとそんなことを思った。

評価
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一言感想
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- テーマの絡ませ方にさりげなさがあってよい。前面に出してないところに味。ってか、上手くなったなぁ。もう、のびちゃんのが上手い。さすが千葉の天才児と呼ばれていただけはある。(´∀`) -- Guym 2005-09-28 (水) 17:32:00
- テーマを活かせてていいんじゃないでしょうか。でも、タイトルの意味がイマイチ分かりにくい・・・ -- Shiori 2005-09-28 (水) 17:33:01
- さすがに文章力ではかないません(>_<)上手いです。見せ方もいい感じ。雰囲気も伝わってきてよかった。まぁ、ただダイイングメッセージはすぐわかっちゃったけどw -- Tear 2005-09-28 (水) 17:34:20
- そうなんよ〜ヒントが簡単すぎるからどうしようかと思ったけど、勢いで書いてしまったのでアップしてしまいました。 -- Nobichan 2005-09-28 (水) 17:43:28
- そうだなぁ。タイトルが弱いな、確かに……。 -- Guym 2005-09-28 (水) 17:50:33
- 事件が起きたときの最初の捜査をタイトルになってる初動捜査といいます。刑事モノとしてはイイと思いますよ。>タイトルの意味がイマイチ分かりにくい -- narubin_ka 2005-09-28 (水) 19:08:03
- 実際には機動捜査隊(機捜)が初動捜査を行い、各捜査課に引継ぐという形をとるらしいですが。 -- narubin_ka 2005-09-28 (水) 19:11:25
- 初動捜査はさすがに知っていますが、内容を表しているタイトルかというちょっと微妙ですね。ちなみに、機捜は通知から数分で到着して、重要な初動捜査をしたあとに引き継ぐという話が、「警察署長」でもありました。そう言う意味では、この主人公のは、「初動捜査」の初動に当たらない部分があり違和感があるのも確かです。 -- Guym 2005-09-28 (水) 20:27:07
- すみません、タイトルなしで作文してて、投稿時にヒラメキでタイプしたタイトルなんですが、こんなにも突っ込みがあるとは・・・・・・タイトルって大事なんですね〜痛感しました(^^; -- Nobichan 2005-09-29 (木) 17:13:41
- 一刑事が操作費予算なんて考えるのかな、とかいろいろ考えちゃいました -- tukinasi 2005-10-25 (火) 17:05:34
| ページ名: | オリジナル小説/いつもとちがう月曜日/初動 [ 送信した通知Ping(0) ] | |
| ページ作成: | ゲスト | - 2005/10/25 17:05:34 JST(1121d) |
| 最終更新: | ゲスト | - 2005/10/25 17:05:34 JST(1121d) |
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