
応募作品:リバースガール・ウェンディ!
↑

応募情報
↑
題名:リバースガール・ウェンディ!
掲載日:2007-06-05 (火) 00:29:09
著者:Nobichan

「リバースガール・ウェンディ!」
↑
月明かりに照らされた生徒会室には、どこかミステリーの香りが漂う。
着慣れないこの学園の制服に身を包んだあたしは、年季の入った木刀の柄を握り締めた。
胸元で結んだかわいいリボンには似つかわしくないアイテムだが、これから起こる出来事を思えばこのぐらいの装備は当然。
捜査直前の高揚感。このドキドキがあるから、あたしは学園捜査官をやめられない。
「ウェンディ様、見つけましたぞ」
ジェイムズの低い声が聞こえる。
あたしの部下で、彼自身も優秀な学園捜査官だ。
燕尾服に蝶ネクタイ、そして真っ白な手袋。まるで執事を思わせるような格好だけど、彼が着ると驚くほど違和感がない。
「どれかしら」
彼が指を差した方向に目をやると、そこには参考書や過去問題集に混じって、あきらかに不自然な本が並んでいた。タイトルは【世界魔法大全】となっている。
ビンゴ! 心の中で指を鳴らすと、あたしはその第三巻に唇を寄せて、入手したキーワードを囁いた。
どこかで小さく機械の振動音が聞こえ、本棚は壁ごとゆっくりと左へスライドする。
そこに見えるのは漆黒の闇に閉ざされた地下への階段。
これこそが、【存在しない生徒会長室】に続くただひとつの道だった。
お互いに声を出さず、目配せをして頷く。
あたしが先に入り、ジェイムズはその後に続いた。
世界は徐々に光を失い、このまま永遠に階段を下がっていくような錯覚にとらわれる。
五百メートルは進んだだろうか。手に扉の感触があたった。
そっと、扉を開けて中をうかがう。暗くてよく見えない。
静かに部屋に入って、ゆっくりと中央へ進もうとしたその瞬間。
───カチッ
突然の照明に目がくらむ。
手をかざしながら見ると、そこには黒幕である生徒会の中枢メンバーが勢ぞろいだった。
「ようこそウェンディ・フロックハート、いやリバースガールと呼んだほうが宜しいかな」
尊大なポーズで足を組み、革張りの椅子に腰掛けた男があたしを名指しで呼びかける。ちょっといい男ね。
この学園の最高実力者であり、生徒会長でもあるフックだろう。
悔しいけど、正体バレてるみたい。
「我が学園始まって以来の他校からの侵入者。どんな輩かと思ってみたら、さえない小娘と小汚いジジイとは」
傍らの女性が、長い髪をかき上げ小ばかにしたように鼻で笑う。
フックの愛人でもある副会長のティンカーベルだろう。美人だけど……噂どおりの性格ブスに違いない。
「どうして他校生とわかったのかしら。制服も特注したんだけど?」
ピンチのときこそ優雅に振舞うのが淑女のたしなみ。
あたしは、制服の裾をちょっと持ち上げて優雅に会釈する。
「……丈がみじかすぎる。それでは校則違反だ」
「どこ見てるのよ!」
淑女モードが一秒も続かなかったあたしを抑えて、ジェイムズが口を開いた。
「なぜ私どもの素性がお分かりになったのか、良ければお聞かせ下さいませんかな」
フックは椅子からゆっくりと立ち上がる。
「お前達は校長のキーワードを知っていた。それが理由だ」
「あんなスケベオヤジ。あたしじゃなくたって、かわいい女の子に聞かれたらキーワードなんてすぐにしゃべってるはずよ」
「それはありえないのだよ。なぜなら、お前たちがキーワードだと思っている、彼が最後に残した言葉……本来は別のものだったのだ」
「だって、扉はちゃんと開いたじゃないの」
ティンカーベルが、馬鹿にしたようにくすりと笑う。
「お前達が来られるように、今朝キーワードを変更しておいてやったのよ」
変更? わざわざそんなことをする理由がわからない。
あたしの不思議そうな表情にフックは答えた。
「それは、お前たちが学園捜査官だからだ」
学園捜査官。
学級崩壊が年々進み、凶悪犯罪の八割が教育現場で発生するようになったこの国において、政府直轄の機関としてこれらの犯罪に対処するために組織されたのが、あたし達学園捜査官というわけ。
基本は潜入捜査だから、この名前を知っているということは、相手も素人さんじゃないってことね。
「キーワードを知る校長を殺し、新たなキーワードを設定した。つまり情報漏洩は絶対ないと言っていい。にもかかわらずそれを知ることが出来るとすれば、学園捜査官、それも過去視の異能力を持つといわれる、あの『リバースガール』しかあり得ない」
「我々の正体を知っていて、誘い込んだということですかな」
「当然だ。さすがに面と向かって貴様らの素性を聞くわけにも行かなかったのでな」
「こんな回りくどいことをしなくたって、デートぐらい付き合ってあげるわよ。もちろん費用は会長さん持ちでね」
このジョークにティンカーベルが表情を変えた。
「何を言う! 会長の厳命がなければ、お前などいつでも始末することが出来たのだ」
「あらぁ、会長さんの命令だったの? ますますもってあたしに気があるんじゃない?」
あたしの挑発にティンカーベルは今にも飛びかからん勢いだ。
「小娘、まだ状況が飲み込めていないようだな。お前達はここから生きて出ることなど出来ないのだ」
憤るティンカーベルを制して、フックが前に出る。
「学園捜査官、特にリバースガールの噂は我々も耳にしている。その高い能力もな。だからあえて生かしておいた。どうだろう。この際、つまらない宮仕えはやめて、ぜひ我々の一員となり学園の運営に協力して欲しい」
「……学園の運営だなんて、ヌケヌケとよく言うわ。ドラッグに売春、薄汚れたビジネスに手を染める組織の片棒を担ぐなんて、まっぴらよ」
「ならば死ねっ!」
ティンカーベルが不意にナイフを投げつける。
あたしはそれを木刀で打ち落とし、腰を落として正眼に構えた。
「あくまで、我が生徒会に歯向かうつもりか。おろかな……」
「会長さん。あなたも男だったら拳で語りなさい!」
その言葉に弾かれたように、後ろで沈黙を守っていた幹部が、怒声とともに襲い掛かってきた。
右、そして左。
滝のように襲い掛かる攻撃を、あたしはひとつとして受けることなくかわし、木刀で応戦する。
正直、殺さないように手加減するほうが難しい。
いくら鍛え上げられた体育会の部長であっても、当局から派遣された直轄の学園捜査官にとっては赤子の手をひねるようなものだ。
ちらりと横を見ると、ジェイムズは、不思議な中国拳法めいた動きで一人、また一人と敵を仕留めている。いつ見ても惚れ惚れするような体術だ。
幹部全員が床に倒れ、動きを止めるまで、一分もかからなかった。
「こ、こんなことって……」
目の前の光景が信じられないのか、ティンカーベルの声が震えている。
「状況を飲み込めていないのは、どちらのほうかしらね」
女といえども容赦なし。ましてや悪女には遠慮なし。
あたしは迷わず木刀をお見舞いした。
派手に顔面にくらって昏倒する。ま、手加減したから死ぬことはないでしょ。
その時だった。
背後から聞いたことのないうめき声が聞こえた。
振り向くと、ジェイムズが腹部を押さえフックの足元で悶えている。
あたしは自分の目が信じられなかった。
過酷な任務を果たすべく『強化』を施された捜査官。
中でもずば抜けて高い身体能力を誇るジェイムズを、武器も使わずこんなにも簡単に倒すなんて。
「あらゆる死地より、必ず生還してきた伝説の捜査官『リバースガール』の噂は、どうやら真実のようだな」
倒れたジェイムズには目もくれず、フックはあたしのほうに近づいてきた。
「女だからとて容赦はせん。行くぞ」
今までにない強敵の予感。
高揚感は最高潮に達し、あたしは、今まで経験したことのない気の高まりを感じる。
あたしは予備動作なしで攻撃に入った。
左から木刀をなぎ払う。
まともに入ればコンクリートをも砕くことができる渾身の一撃だ。
しかし、フックはまるでそれを予期していたかのように軽々と後ろに避け、右足からまわし蹴りを繰り出す。
なんてスピードなの!? あたしは間一髪で避けた。
間を入れず左からフック。
木刀でガードを試みるが、それはカンペキなフェイントだった。
握った左拳がするりと開き、あたしは木刀をつかまれてしまう。
手首をひねると、あたしの木刀は音を立てて部屋の隅にとばされた。
こうなったら仕方がない。できれば死人は出したくなかったけど。
あたしは太もものホルダーにつるしたリボルバーを引き抜いた。
いや、抜いたはずだった。
気づいたときにはリボルバーは彼の右手でつかまれていた。
虚をつかれたあたしは、反撃も繰り出せずに後ろに下がる。
なんとか距離を保つが、とどめを刺すはずのリボルバーは、あたしに照準を定めていた。
「女にしてはなかなかやるが、所詮私の敵ではないな」
あたしは唇をかんだ。
常人の反応速度にくらべ三倍はあるはずのあたしの攻撃が、完全に見切られるなんて。
ただ『強化』しているというだけでは説明の付かない強さだ。
考えたくもないが、他に原因はひとつしかない。
「気づいたようだな。我が『フォワード』の力に」
フックはここで初めてにやりと笑った。
今までのジェントルな態度とは程遠い邪悪な笑みだ。
こいつを、ちょっとでもいい男だと思った自分が許せない。
「あなた、『異能者』だったのね」
「その通り。異能力が貴様だけの専売特許だと思われては困る。『フォワード』は、あらゆる状況下で常に五秒先を予測することができる能力。つまり未来視なのだ。過去視である『リバース』がどうやっても適うはずもなかろう」
「でも、異能者は国家保安法に基づき、遺伝子レベルでのデータベース管理がされているはず。当局が知らないはずがないわ」
「私が先天的な異能者ならな」
フックは小さな薬品の瓶を取り出した。
いやな想像が脳裏をよぎる。
「そう、お気づきの通り、我が異能はこの『アダプター』によるものだ」
アダプターは、異能覚醒を目的とした遺伝子操作薬だ。
現行技術では服薬時の事故率が高すぎる点や、出現する異能の不確実性、そして危険性が理論上不可避とされており、もちろん現在はあらゆる国家において開発は禁じられている。
裏組織での開発計画の情報を入手して今回の捜査となったが、まさか実用段階にあるなんて……
「あなた達生徒会の力を見くびっていたわ。完成しているとはね」
フックは誇らしげに続ける。
「残念ながら、完成品とまではいかないがな。ようやくプロトタイプが作られたところだ」
「まさか、自ら人体実験をしたというの?」
フックは頷いて続けた。
「いかにも。研究の道のりは長かったぞ。しかし後は、我が身体の組成を遺伝子分析し、このプロトタイプにフィードバックすることで完成する。我々は世界を手にするのだ」
プロトタイプ? そうか、そういうことか。あたしは思わず笑みがこぼれる。
「何がおかしい?」
笑いをこらえながらあたしは言った。
「会長さん、あなたホント惜しかったわ。顔もいいし、頭もいいし……ただちょっと詰めが甘かったわね」
「ふん、強がりを言う女だ」
あたしは真顔に戻り、フックに指を突きつけた。
「つまり、今この場であなたを倒せば、実験結果とプロトタイプは永遠にこの世から消える。あたしの捜査は終了ってことよ!」
フックは一瞬考え込んだが、すぐに爆笑しだした。
「フハハハハ。私を倒すだと!? 先ほど戦ってわかっただろう。所詮、過去は未来に勝てんのだ。それも未来永劫、な」
「ちょっと待って。あたしは、まだあなたと戦った覚えはないわ」
「なんだと?」
怪訝そうな顔をするフック。
「『リバース』は過去を見る力じゃない。正確に未来をトレースする能力。三十分間先のね。これがどういうことかわかる?」
あたしは優しく説明してあげた。
「今、あなたとあたしが会話しているこの世界そのものが、あたしの脳内でシミュレーションされた未来なの。つまり単なる可能性に過ぎない」
「ど、どういうことだ」
「こういうことよ」
三十分前のあたしがほんの少しだけ歩みを緩める。それだけで未来の可能性は大きく矛先を変える。
【フックの前に立つあたし】という可能性は消え、あたしはフックの背後にいた。
「おわかり? 得意の能力で、あなたの未来を予測してみたら?」
あたしは撃鉄を起こしながら言う。
なぜ目の前からあたしがいなくなったのか、彼は永久に理解できないだろう。
彼に理解できるのは、ただ背後にあたしがいるという事実。
そして、彼が手にしたリボルバーは、あたしの手の中で出番を待っている。
「そ、そんなことが……」
振り返ったフックの表情は、絶望的なまでに青ざめていた。
彼は知ってしまったのだ。自分の未来が閉ざされたという事実を。
「バイバイ」
あたしは引き金をひいた。
ただ一発の銃声が、彼の人生、そして今回の捜査の幕を引く。
アダプターなんてものを知らなければ、彼も死ぬほどのことはなかったのに……
あたしは十秒間だけ悪党の魂に黙祷を捧げた。
そうだ、ジェイムズ!
あたしは急いでジェイムズに駆け寄る。
どうやら少し気を失っていただけらしい。
彼は頭を振って立ち上がった。
「ウェンディ様……不覚を取りました」
「気にしないで。異能者なんて、学園捜査官にだって三名しかいないもの。あたしも死人、出しちゃったし」
ジェイムズは、床をちらりと見て小さく十字を切った。
「ついに今年も二桁ですな……昨年以上のハイペースです。明らかに正当防衛ではありましたが、局長のお咎めは免れませんな」
局長かぁ……あたしは通信機で地元警察署に応援を呼びながら、ついグチをこぼした。
「局長ってばうるさいのよね。口を開けば減俸減俸って。こんなに頑張ってるのにあたし、デートするヒマもないんだから」
ジェイムズは涼しげな顔で返す。
「妙案がございます。明日は水曜日ですが学園の創立記念日。キャンセルしたデートの約束をもう一度取り付けてはいかがですか」
げほっ。思わず咳き込む。
「な、なんであなたが知ってるの!?」
「上司のスケジュールを把握しておくのも、部下の務めでございますから」
ジェイムズはこういうと、胸元から封筒を取り出した。
渡された封筒を開けてみる。
中にはフェアリーランドのチケットが二枚、入っていた。

評価
↑

一言感想
↑
- 時間コントロール30分はバトルで使うには長くないだろうか(´∇`)?
-- Tear 2007-06-22 (金) 11:16:29
- おもしろかったですよ。ただし、Tearさんもいっているとおり、この能力だったら普通の長さの小説で使うべき特技ですね。じつは、構想中の小説ネタと一部かぶっている部分があって、すこし欝w
-- たらい 2007-06-23 (土) 10:54:39
- Tearちゃんの指摘もごもっともかと。テーマはラノベで、壮大なストーリー(笑)の最終章というつもりで書いてたんですが、この長さじゃどんでん返しにはちょっとツラいよな〜と反省。
-- Nobichan 2007-06-25 (月) 18:04:50
- ちょっと駆け足になってしまって、内容に私はついて行けませんでした。しかし、もっとも気になったのはタイトル。「リバースガール=嘔吐少女」かと思ったwwwww
-- Guym 2007-06-26 (火) 16:22:25
- そんな意味もあったっけ?裏がある→裏ガールってタイトルから全て考えたんだもん・・・しょうがないじゃんヨ〜(笑)
-- Nobichan 2007-06-26 (火) 23:42:41
| ページ名: | オリジナル小説/裏がある水曜日/リバースガール・ウェンディ! [ 送信した通知Ping(0) ] | |
| ページ作成: | Nobichan [6F9uCnSXgtro] | - 2007/06/27 00:01:47 JST(512d) |
| 最終更新: | ゲスト | - 2007/06/27 00:01:47 JST(512d) |
| 編集可: | サイト管理者 | |
Modified by Guym
"PukiWikiMod" 1.6.5.1 Copyright © 2003-2006 ishii & nao-pon License is GNU/GPL.
Based on "PukiWiki" by PukiWiki Developers Team
Powered by PHP 5.2.6
HTML convert time to 1.529 sec.
